今、最も革命的な雑誌は、雑誌『プレジデント』だと思う。

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はっきり言って驚いたというか、目を、疑った。経済雑誌プレジデントの毎日新聞に出ていた今月号の特集の目次を見ていて、である。まさか、と、思った。今日、それを買ってきてさらっと読んだのだが、驚きは確信に変わった。もはや時代は変わったのだと。これまで経済雑誌なんかにまるで興味は無かった。マネジメントがどうだとか、マーケットの動向がどうだとか、クソのような情報しか載っていなかったからだ。ところが、今月号の内容を一言で言えば、こうなる。
 
「年収1500万円の家庭より、300万円の家庭の方が幸せだ」
もしくは
「300万円あれば十分幸福に生きていける」
という、内容だ。

それを捕捉するように、冒頭で、モダンな経済成長を前提とした立身出世型の「未来の目標達成型」の幸福観よりも、後期近代における「今、ここにある幸福に気がつく」幸福観が提示され、年収別の幸福にまつわるデータが統計で叩き出される。その結果がこうだ。


年収別「幸せ実感」調査1000人の本音
300万●4割が「毎日家族団らんできている」円満ファミリー
500万●仕事か家庭か悩み多くとも「相談できる人がいる」
800万●働き盛り、教育費がずしりと重くのしかかる
1000万●同僚と妻に不満、もっと面白い仕事を求める
1500万●2割が「家族と会話なし」、社会貢献がしたい



そしてその後に続くのは……「 コラム▼東大卒独身男が20年続ける「豊かな無職生活」」だとか、「 ▼今の20代はなぜお金がなくても幸せなのか」だとか 「リストラで収入3割減をモノともしなかったワケ 実物公開「300万の家計簿」は最高ハッピー」「フリマ超活用術」「携帯は一家に一台」「 データが語る、なぜか不機嫌な日本人の不思議▼衝撃のデータ! 経済力は世界3位でも、幸福度は先進国最低レベル」「幸福とは、報酬など全然求めていなかった者の所に突然やってくる報酬である アランの幸福論」という記事が続く。これはもう「お金なんか稼がなくてもいいんだよ。立派なモノや家が無くてもいいよ。300万で十分幸福だし、逆に1000万円以上あると不幸だよ」と、言っているようなものだ。(数字は目次だけの印象で、実はちょっと誇張している。幸福度や安心感のインタビューの結果は年収に比例して上がるというデータも掲載されているし、記事をちゃんと読んでいくと年収500万円~800万円が一番不幸ということになる。)

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最初はSPAみたいな内容だなと思った。似たような記事や特集ならすでにそちらで何度もやっているだろう。ところが、これは、かなりお堅い、少なくともサブカルチャーだとかオタクだとかニート、フリーター向けではない、バシっとスーツを着込んで日経新聞を毎朝読むような人々のための雑誌なのだ。そんな「真面目に働けばその分報われるはず」だとか「経済的達成=幸せ」だと信じている人々にむかって、「稼いでも無駄だ」という内容の記事を載せてしまったのである。ついに。この雑誌は。(何度も繰り返すことになるが真剣に働いて正社員を維持して借金して家を買って……と、頑張っている人に「豊かな無職生活」と言ってしまっていいのだろうか? と僕は本気で心配している。だって裏返せば「貧困な正社員生活」なのだし、あなたの努力は報われないと宣言しているのと同じだ)


これはとんでもないことだと思う。革命だと思う。明治時代以降ずっと近代資本主義の精神として傷つくことのなかった立身出世主義、僕らの言葉で言うなら「バビロン」的な考えに対して、ダメ連や素人の乱が主張してきたこと(註1)、つまりハクやウダツといった世間的な経済的達成感にとらわれることの無い、「豊かな無職生活」が、こんな雑誌に、それこそ勝手に載るようになったのだから。知っている人は知っていると思うが、すでにこの国の経済は国民一人あたりのGDPの比較でシンガポールや香港、台湾に追い抜かれている。やがて近いうちに韓国、中国に追い抜かれるだろう。

「アジア経済ランキング」-もうすぐ韓国も日本を追い抜きそう。

日本国民 平均所得291万円! 東京415万円 大阪300万 愛知323万 福岡264万

サラリーマンの平均年収の推移 現在は412万円

 これはもう間違いのない事実だ。平均年収は緩やかに後退し、国民全体では300万円くらいが普通になりつつある。こうなった時にどうお金儲けをするのか?ではなく、いかに限られたお金で幸福に生きるか?と考えること。そうやって思考の根本を切り替えなければいけない時期に来ているのだ。このこと自体、僕は幸福なことだと思う。もう「一億総下流社会」でいいじゃないか。

 ところがところが、まだ、この国が一番でいなければいけないと思い込んでいる人々、そう、思い込みたい人々がいる。残念ながらそれは時代遅れの妄想にすぎない。韓国にも中国にも負けたくない人々。しかし、なぜ中国や韓国と競争しないといけないのだろう? (アメリカはどこにいった?) 経済的な競争に負けると奴隷になるから と、そういった人々は答えるだろう。金=権力であり、それは武力でもあると。しかし、経済的に貧しい国が豊かな国の属国に必ずなるというのはあまりにも無理がある。それに幸福を、つまり安心と達成感を経済力と武力という物差しでしか測れないのもおかしい。

 そういったマイナスの感情を抱きやすい人々のことをこの特集では「近代化によって主流化した達成型の幸福」に苦しめられている、時代に適応できないかわいそうな人々と指摘している。ちょっと引用してみよう。「実際今の日本社会は、「負の感情」にあふれた社会である。格差や現実の理不尽に対する怒り、その半面で「うまくやっている人」への嫉妬、経済危機に起因する将来への不安や非観、様々な「負の感情」が巷にはあふれている。欲求が満たされないことへのストレスと、どこへ向けていいのかわからない怒り、先々への不安などの負の感情が充満する社会、それが今日の日本の姿と言えるだろう

 コメント表を見てみよう。

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 こういった型の時代遅れとなった幸福病を病んでいる人々が嫉妬心から韓国や中国をけなすのだろう。そもそもほとんど誰も行ったことの無いようなちっぽけな島の領有権が僕らの具体的な幸福とどう関係しているというのだろう? この特集ではアランの言葉が載せられている。「悲観主義は気分によるものであり、楽観主義は意志によるものである」と。そろそろ日本が一番強くなくては滅ぼされるというネチネチした妄想にとらわれた人々に「そんな島どうでもいいじゃん」と言える強い意志を持ってもらいたいものだ。そんなメディアの中にしかないどうでもいいイメージ(国家だとか国境だとか国力だとか)ばかりに囚われて今ここにある幸福に気が付けない生き方は明らかに不幸だし、時代遅れだ。








徹底分析!お金に困らない生き方・暮らし方
年収300万父さんは、なぜ幸せなのか


目次

徹底分析!お金に困らない生き方・暮らし方
年収300万父さんは、なぜ幸せなのか

「悩み、後悔、不安」から解放される思考テクニック●奈良雅弘
最新心理学が解明!
頭の中にひそむ「幸せ泥棒」撃退法
▼ブータンにあって日本にはない、「幸せの方程式」とは
▼怒り、嫉妬、悲観……負の感情が生まれやすい人
▼「達成型の幸福」と「遍在型の幸福」の違い
▼タイプ別診断付き!「幸福を感じやすくなる」練習帖
希望とは、人間の義務である
――生きる力をもらえる三賢人の金言

●鎌田 實
「アランの幸福論」笑うからしあわせなのだ

●白取春彦
「ニーチェの言葉」自分自身の主人たれ!

●齋藤 孝
「宮沢賢治の想い」かなしみもみんなおぼしめし
五木寛之 「不信の時代」に響く親鸞の教え

●山田昌弘
年収別「幸せ実感」調査1000人の本音
300万●4割が「毎日家族団らんできている」円満ファミリー
500万●仕事か家庭か悩み多くとも「相談できる人がいる」
800万●働き盛り、教育費がずしりと重くのしかかる
1000万●同僚と妻に不満、もっと面白い仕事を求める
1500万●2割が「家族と会話なし」、社会貢献がしたい

●山崎寿人
コラム▼東大卒独身男が20年続ける「豊かな無職生活」

未婚女性の理想は600万円だが、意外な勝ち組が……●白河桃子
年収300万で結婚できる男、捨てられる男

●白河桃子
コラム▼なぜ年収800万の「Mart主婦」家計は破綻しやすいか

●藤屋伸二
▼もしも、ドラッカーが年収3万ドルだったら

「リストラで収入3割減」をモノともしなかったワケ●北見久美子
実物公開「300万の家計簿」は最高ハッピー
コラム▼「手取り800万貯金ゼロ」vs「300万で貯金1000万間近」お財布比べ

●花輪陽子・俊行
▼夫の出番!
妻が見落とす暮らしの「ムダ・ムリ・ムラ」両断法

●伊藤博之
データが語る、なぜか不機嫌な日本人の不思議
▼衝撃のデータ! 経済力は世界3位でも、幸福度は先進国最低レベル

●古市憲寿
▼今の20代はなぜお金がなくても幸せなのか





 
(註1)だめ連宣言 神長恒一

ほとんど語られることがないように思うのですが、実は私たちの人生において、「ダメな奴にはなりたくない」とか「ハクをつけたい」といった判断が、最初の1歩として大きくあるのではないでしょうか?

 私はここをラジカルにとらえかえしたい。

 例えば就職です。

 どうして人は就職するのでしょうか? それはもちろん正社員になったほうが制度上いろいろ都合のよいことが多い(ナンセンス!)という問題とリンクして、「就職すると決めているから就職する」ということが大きいと思えるのです。

 就職すると決めているから就職する。つまり30すぎて仕事もせずに毎日ブラブラしているというような人生は、最初から選択肢のうちに入っていないということです。

 しかしそのことを、どうしてそうなんだろうとよくよく考えてみると、やはり「ダメな人だとの烙印を押されたくない」ということが大きいように思います。確かに就職しないで生きることと悲惨な人生がセットになって語られることがたいへん多い気がしますが、現実はそうとも限りません。

 仮に就職するとしても、就職すると決めているから就職するのではなく、就職する人生、しない人生どっちも選びうるというなかから就職を選ぶ、という方が面白い(誤解がないように言っときますが、私は就職したらダメと言っているのではありません)。

 これはもちろん、就職に限らず、他のことにもあてはまると思います。

 実は「ハク」や「うだつ」といったものが私たちの人生を大きく限定していて、私たちは想像力や実験精神というものを失いつつあるのではないでしょうか? 「他人と同じ生き方」や「人より優秀な自分」なんて人生ではあまりに寂しすぎるというものです。

 たった1回きりの人生なのですから、「身捨つるほどの祖国」もなければうだつもありません。ハクを捨てて、当たり前だと思い込んでいることを疑ってみる。そんな生き方からこそ何かが起こりうるのではないでしょうか。



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