利休のムスリム・ガーデン 前編
ショック!ショクブツ!?
とても悲しいことがおきた。非常に残念だ。お塩先生のシド・ヴィシャス騒動とか森繁先生の96歳の入院もショックだが、それどころじゃない。今朝の悲劇は、テレビの中の話ではなく、ボクの生活空間に直接関わることなのだ。
ボクの部屋はアパートの2階にある。下の階には庭があり、そこから立派なムクゲの木が生えていて、ベランダはちょうどムクゲの花が鑑賞できるベストポジションにある。ムクゲはアオイ科の落葉低木で 夏から秋にかけて毎朝、とても美しい花を咲かす。夏の茶花としても欠かせない花である。
失業してから部屋で過ごす時間の長くなったボクにとって、毎朝咲くムクゲの花を数えながら、お茶を飲む行為は精神衛生上とても重要な儀式になっていた。ムクゲの花の咲き具合で今日一日の運勢を無意識に占っていたのだと思う。これは昨年の9月の部屋から撮った写真だけど、こんな感じのときは何かいいことがあった。
今年、そのムクゲに異変が起きた。春になって新葉をつけたムクゲの木が梅雨の長雨の影響もあり、その重さによろめき、ボクのベランダに向かって倒れかけてきたのだ。これは美しいと思った。そのときちょうどベランダーデビューしたタイミングでもあり、まるでベランダの植物と庭のしだれムクゲがお互い惹かれあう男女のように日に日に接近してついには合体してしまったのだ。モロッコインゲンのツルがムクゲの枝に絡まりついた。
そして、部屋の中に自然が入ってきた。ムクゲの木を伝って下界の昆虫たちがわがベランダにも侵入して野蛮を極めたことはこれまでブログでレポートしているとおりである。ボクはそこにヤヴァン・ガーデニングという名前をつけて愛でた。
昨年まで顔の高さよりも上にあったムクゲの花が今年はしだれて下にある。ベランダに出てミントティーを飲みながら、下を眺めるとアーチ状に曲がった枝から生える葉がまるで緑の絨毯のようであり、7月に入りムクゲの花が咲き始めてからその絨毯はアラベスク(唐草模様)となった。
OPEN FIELDなヤヴァン・ガーデニングのバックには緑の絨毯
野蛮な楽園の完成。「地上の楽園」 の創造を目指したイスラム庭園に憧れていたので、この自然の演出はボクを喜ばせた。古代ペルシャでは、壁や塀で 「囲われた庭園」 のことを、パイリダエーザと呼んだ。その言葉がヨーロッパに伝わって、楽園を意味する英語の 「パラダイス」 の語源となったのである。 ボクがイスラム文化に惹かれる最も核心的な部分はその楽園観である。厳しい規律や、過酷な生活環境の中で生きるムスリムの楽園への願望の強さは半端ない。
興味のある方はこの本を読むといいだろう。
『楽園のデザイン ― イスラムの庭園文化 ―』
今朝起きた悲劇に話を戻す。遅く目覚めたボクは窓を開けて愕然とした。「茶乃窓」から見える風景がまったく変っていたのだ。昨日まであったムクゲが忽然と消えている・・・。ボクは悪い夢を見ているのだろうと思い、二度寝をすることにした。だって蒲団の中にはいつも楽園があるから。
つづく
- HarpoBucho
- By harpobucho / Aug 04, 2009 12:36 pm