RLL 2013′S BEST BOOKS
毎年恒例、RLLのBEST BOOKS。今年はintellipunkひとり。
1 『パンとペン 社会主義者・堺利彦と「売文社」の闘い』黒岩比佐子(講談社文庫)
2013年末に秘密保護法が強行に可決された。治安警察法〜治安維持法の二巡目の様に感じる。「ヘーゲルはどこかで歴史上の偉大な事件や人物は2度現れると述べているが、彼には言い落としたことがあった。つまり1度目は悲劇として、2度目は喜劇として」このマルクスの言葉とともに、あの社会主義者の冬の時代の始まりなのかと憂鬱になった。しかしそうは云ってられない。二度目の喜劇役者の台本として、一度目の悲劇の冬をどうやって先人は乗り切ったのかを確かめるべく、大逆事件・大杉事件・亀戸事件を獄中の幸運により逃れた堺利彦の伝記を紐解く。だが意外にも彼の運命は悲劇だけではなく、そこに書かれた陽光の様にぽかぽかとした人柄に暖められた。逆境の時代に楽天人生を生き切った堺利彦をリスペクト! 朗らかな政治的闘志への優しい視点を著者黒岩氏から教えられ、読後には希望のような昂揚感がある。今のファッショ蠢く時代に必要なのは、ニヒリズムの混じらないユーモアと人間性だと痛感した。
2/3 『絶望論―革命的になることについて』廣瀬純(月曜社)/『アントニオ・ネグリ 革命の哲学』廣瀬純(青土社)
2012年に出された市田良彦『革命論 マルチチュードの政治哲学序説』(平凡社新書)への直接の返答として、2013年に廣瀬純によって出された2冊の本は読むことができる。市田良彦『革命論』では、BPMを揃えてDJセンスで繋げられた最高のパーティー革命論として、アルチュセールを軸に、アガンベン、ネグリ、アレント、シュミット、デリダ、ラクー=ラバルト、ナンシー、バディウ、ランシエール、バリバール、ドゥルーズ、ズーラビクヴィリ、スピノザ、マトロン、フーコーが並べられ通読できる、アゲアゲである。それに対して廣瀬は、ドゥルーズの不革命性を主題にした『絶望論』とネグリの革命性を主題にした『アントニオ・ネグリ 革命の哲学』両A面シングルのような兄弟のような本でばっちり決めてくれた!
ドゥルーズ『絶望論』では、アルチュセールとドゥルーズが共に革命の不確実性により絶望させられつつも「恥辱」(市田的には「陽気なペシミズム」)によりドゥルーズが「革命的になること」となる。このいささかアクロバティックな展開は、宇野邦一『ドゥルーズ――群れと結晶』で若干理解可能になる。『アントニオ・ネグリ 革命の哲学』では、アルチュセールの弟子たちバディウ、ランシエール、バリバールを革命の哲学になりえないとしてバサバサと撫で切る。接続乗り入れ可能な思想系譜のドゥルーズとネグリの違いを際立たせる「恥辱」と「怒り」の存在論。ドゥルーズの『スピノザ-実践の哲学』から『意味の倫理学』への転歩と、ネグリ『野生のアノマリー』から『構成的権力』への転歩という、共にマルクスの革命性とスピノザの不革命性を担保しながらの、両者の行き先を分けるマキャベリとブスケ。2014年早々に市田『存在論的政治 反乱・主体化・階級闘争』が出ることによって、またマルチチュードで革命を興せるか骰は振られるが、しかしここにガタリの不在を感じる。
4 『カリブ-世界論: 植民地主義に抗う複数の場所と歴史』中村隆之(人文書院)
近代帝国主義の植民地主義からポストコロニアリズムへ、そして世界はグローバリズムに移行した。このことを極東の列島に居て思考する場合、列強と天皇と戦争と経済とスペクタクルで粉飾されるために、自分の物語に刷り合わせるには鼻白む思いだ(日本浪漫派を読むんだったらセガレンの〈エクゾティスム〉に身を焦がしたほうがずっとましだ)。だからなのか、遠く離れたカリブ海アンティル諸島フランス語圏のグアドループとマルティニックから綴られた哲学詩人たちの言葉を通してポスト植民地主義の生きる態度〈クレオール〉を学び自分の物語とする。セゼール、ファノン、グリッサン、シャモワゾー、コンフィアン、何故に綺羅星のように瞬くこの島の思想家に魅かれるのか『カリブ-世界論』で知ることになる。彼らの思想の基になる現実と実践、マルコムXやゲバラにのっかって第三世界革命論を語るだけでは見えて来なかった、その場所の事情と対応した思索が腑に落ちる。永きに渡り支配的な国家と資本の力に屈服も結託しない、民衆の団結と詩人の営為は、2009年のゼネストと「高度必需品宣言」に結実する。
5 『海賊旗を掲げて―黄金期海賊の歴史と遺産』ガブリエル・クーン(夜光社)
インドネシアのマージナルのドキュメンタリー『マージナル=ジャカルタ・パンク(Jakarta, Where PUNK Lives-MARJINAL)』を観てわかるように未完の第三世界プロジェクトが潰えたサードワールドにはPUNKが燃え広がっている。ストリートチルドレンはPUNKSになりスクワットとスラムは混雑する。先進国であってもPUNKは『CRASS』やブレイディみかこ『アナキズム・イン・ザ・UK』や清水知子『文化と暴力』で描かれるサッチャー新自由主義の合わせ鏡として滅してはいない。またイタリアのアウトノミアとロンドンのPUNKが同時期1977年に爆発したというビフォの指摘しかり、それは高度資本主義(グローバリズム・ネオリベラリズム・金融資本主義)という資本主義の最先端モードに対する発作の文化なのだ。吹きだまったプレカリアートのエチカとしてhiphop同様に、都市部族様式を超えて世界的な生き方へと姿を変えている。
歴史上の海賊を、現代のPUNKのソレのようにして、資本主義の立ち上がりである17世紀の第一グローバリズム期に対応する文化生態として観ることで得られる知見は、軽く今まで持っていた海賊のイメージをぶっ壊す。勿論『ミルプラトー』の戦争機械・平滑空間の編成・逃走線などの資本と歴史の過程で編まれるドラマとして読むことも可能。海の物語は(陸地においては『素朴な反逆者たち(Primitive Rebels)』『匪賊の社会史(Bandits)』などホブズボームの功績は大きい)ロマンチックなだけに名著が多いが『村上海賊の娘』『海賊ユートピア』も2013年に出たので翻訳者菰田氏の活躍で海賊イヤーだった気がする!
6 『コスモポリタニズム 自由と変革の地理学』デヴィッド・ハーヴェイ(作品社)
カントの「地理学」を枕にコスモポリタニズムという思想を錬金してゆく。ポストコロニアリズムとグローバリズムは表裏でありネオリベ新自由主義の一方からの見え方であるならば、そっから地球市民権シチズンシップはいかに可能なのか、フーコーやウォルツァー、マーサ・ヌスバウムやウルリッヒ・ベック、ジャレド・ダイアモンドやトーマス・フリードマンをざくざく切る。解放的なコスモポリタニズムを空間・場所・環境という地理学的道具で構想していく、ハーヴェイの立ち上げた地理学的批判理論すごいじゃないか。2013年は『反乱する都市』も出て活発、ハーヴェイ+マルクス資本主義分析は現在無双。
7 『社会的なもののために』市野川容孝、宇城輝人、山森亮、宇野重規、小田川大典、川越修、斎藤光、酒井隆史、中野耕太郎、前川真行、道場親信(ナカニシヤ出版)
社会学の先生たちが社会ソーシャルの意味意義変遷見方を巡ってああでもないこうでもないと座談する愉快な本。サッチャーの「社会というものは存在しない。あるのは個人だけだ」が新自由主義によって日常にまで浸透してきている現在に、社会なき跡地に新たに打ち立てるのは何?(デュルケムからタルドへという哲学方面の潮流もあるが、この本では関係ないか)ネオリベ・労働・都市・民主主義・国民・共同体・311などなどと「社会的なもの」を軸にぐるぐると、先生たちのキャラをしりつつ読むと社会思想バトルロイヤルのようで、出口はどっちだ。
8 『新・音楽の解読: ダダ/インダストリアル/神秘主義/ハウス/ドローンまで、誰も教えない音楽史』能勢伊勢雄(DU BOOKS)
音楽の解読と書きながら、音楽史だけではなく、カウンターカルチャー・DADA・サイケデリック・オカルティズム・ビートニクとオルタナティブミュージックの縁を、ディスクガイドではなく世界解釈して、ステッチしてマップワーク。カタログ化していない音楽の紹介は、良い意味でペダンチックで新鮮。いくらでも音はネット上で聞けるけれど、俯瞰して見渡し美学的に一環して系譜学として提示される体験は貴重(もともと講義だったので、これすごい体験だったはず!)。
9 『自発的隷従論』エティエンヌ・ド・ラ・ボエシ(ちくま学芸文庫)
若い!青年18歳!16世紀に人々はなぜ自ら被支配されようとするのか?!にザックリと格調高い美文で詠われる思想。が、この後に体制司法官として活躍し33歳で死んでしまう。王政下の外患罪にされてしまう代物は、ひっそりこっそり読まれていた劇薬のような発禁本。似たのでは明治41年秘密出版クロポトキン『麺麭の略取』があるね。確かに共通するのは、高潔で崇高な理想と汚らしい現実への叱咤がある革命思想。『国家に抗する社会』のピエール・クラストルが心酔して「思想史のランボー」と呼ぶのもいい、筋がいい。
10 『ゾミア―脱国家の世界史』ジェームズ・C・スコット(みずず書房)
『海賊旗を掲げて』『国家に抗する国家』など『ミルプラトー』を読むことで読み解ける、アナキズムの未完の歴史の一つとして。インドシナ半島の山岳地に作られた国家ではない時空間と人々の暮らしが存在することは、文化人類学・経済人類学の方からの国民国家批判として『無縁・公界・楽』のようにも観え、『権力を取らずに世界を変える』のように新しいアナキズムに強いインスピレーションを与える。現在、杉並区図書館で3人待ち、新宿区図書館ではHarpoBuchoが通読中で2人待ち。
以下、次点 ぜったい読むといい本!?
伊藤守『情動の権力―メディアと共振する身体』(せりか書房)
黒島伝治『瀬戸内海のスケッチ―黒島伝治作品集』(サウダージブックス)
ジャン=クレ・マルタン『ドゥルーズー経験不可能の経験』(河出文庫)
山森裕毅『ジル・ドゥルーズの哲学: 超越論的経験論の生成と構造』(人文書院)
スラヴォイ・ジジェク『2011 危うく夢見た一年』(航思社)
ブレイディみかこ『アナキズム・イン・ザ・UK-壊れた英国とパンク保育士奮闘記』(Pヴァイン)
上野俊哉『思想の不良たち――1950年代 もう一つの精神史』(岩波書店)
二木信『二木信評論集 ~しくじるなよルーディ~ (ele‐king books) 』(Pヴァイン)
Patrick Potter、Gary Shove『BANKSY YOU ARE AN ACCEPTABLE LEVEL OF THREAT【日本語版】』(パルコ出版)
よかった本やこれから読みたい本
西川勝『「一人」のうらに―尾崎放哉の島へ』(サウダージブックス)
山川均、賀川豊彦、内田魯庵、山崎今朝弥、村木源次郎、和田久太郎、堀保子、有島生馬、大杉豊『新編 大杉栄追想』土曜社
栗原康『大杉栄伝: 永遠のアナキズム』(夜光社)
エリゼ・ルクリュ、石川三四郎 『アナキスト地人論――エリゼ・ルクリュの思想と生涯』(書肆心水)
安藤礼二編『折口信夫対話集』安藤礼二編(講談社文芸文庫)
中田英樹『トウモロコシの先住民とコーヒーの国民―人類学が書きえなかった「未開」社会』(有志舎)
山口昌男『山口昌男コレクション』(ちくま学芸文庫)
C.アウエハント『鯰絵――民俗的想像力の世界』(岩波書店)
多木浩二『映像の歴史哲学』(みすず書房)
粉川哲夫『映画のウトピア』(芸術新聞社)
清水知子『文化と暴力 揺曵するユニオンジャック』(月曜社)
ロイック・ヴァカン『ボディ&ソウル ある社会学者のボクシング・エスノグラフィー』(新曜社)
ピーター・ランボーン・ウィルソン『海賊ユートピア: 背教者と難民の17世紀マグリブ海洋世界』(以文社)
平井玄『彗星的思考 アンダーグラウンド群衆史』(平凡社)
現代理論研究会、矢部史郎、マニュエル・ヤン、森元斎、田中伸一郎、村上潔、栗原康、アンナ・R家族同盟、白石嘉治『被曝社会年報 1: 2012-2013』(新評論)
『HAPAX VOL.1』(夜光社)
ジグムント・バウマン、デイヴィッド・ライアン『私たちが、すすんで監視し、監視される、この世界について リキッド・サーベイランスをめぐる7章』(青土社)
デヴィッド・ハーヴェイ『反乱する都市――資本のアーバナイゼーションと都市の再創造』(作品社)
中山智香子『経済ジェノサイド: フリードマンと世界経済の半世紀』(平凡社新書)
セルジュ・ラトゥーシュ『〈脱成長〉は、世界を変えられるか――贈与・幸福・自律の新たな社会へ』(作品社)
ヴィジャイ・プラシャド『褐色の世界史――第三世界とはなにか』(水声社)
アントニオ・ネグリ『叛逆―マルチチュードの民主主義宣言』(NHK出版)
ジャック・ランシエール『アルチュセールの教え』(航思社)
ジャック ランシエール『言葉の肉―エクリチュールの政治』(せりか書房)
ジャック・デリダ『エクリチュールと差異(叢書・ウニベルシタス)』(法政大学出版)
ジョー・ブスケ『傷と出来事』(河出書房新社)
國分功一郎『ドゥルーズの哲学原理』(岩波現代全書)
千葉雅也『動きすぎてはいけない: ジル・ドゥルーズと生成変化の哲学』(河出書房新社)
清水高志『ミシェル・セール: 普遍学からアクター・ネットワークまで』(白水社)
竹村和子『境界を攪乱する――性・生・暴力』(岩波書店)
ダナ・ハラウェイ『犬と人が出会うとき 異種協働のポリティクス』(青土社)
ダナ・ハラウェイ『伴侶種宣言 犬と人の「重要な他者性」』(以文社)
ミシェル・フーコー『ユートピア的身体/ヘテロトピア』(水声社)
箱田徹『フーコーの闘争―〈統治する主体〉の誕生』(慶應義塾大学出版会)
熊野純彦『マルクス 資本論の思考』(せりか書房)
ハイデガー『存在と時間』(岩波文庫)
ジョン・D・バロウ『無の本 ゼロ、真空、宇宙の起源』(青土社)
レオ・シュトラウス『自然権と歴史』(ちくま学芸文庫)
宇野重規『民主主義のつくり方』(筑摩選書)
アーノルド・ミンデル『ディープ・デモクラシー: 〈葛藤解決〉への実践的ステップ』(春秋社)
田中泯、松岡正剛『意身伝心: コトバとカラダのお作法』(春秋社)
小川真『カビ・キノコが語る地球の歴史: 菌類・植物と生態系の進化』(築地書館)
三木成夫『内臓とこころ』(河出文庫)
渡邉格『田舎のパン屋が見つけた「腐る経済」』(講談社)
レイ・オルデンバーグ『サードプレイス―― コミュニティの核になる「とびきり居心地よい場所」』(みすず書房)
シャロン・ズーキン『都市はなぜ魂を失ったか ―ジェイコブズ後のニューヨーク論』(講談社)
ロブ・ホプキンス『トランジション・ハンドブック―地域レジリエンスで脱石油社会へ』(第三書館)
マティルド・セレル『コンバ―オルタナティヴ・ライフスタイル・マニュアル』(うから)
トーマス・マクナミー『美味しい革命―アリス・ウォータースと〈シェ・パニース〉の人びと』(早川書房)
速水健朗『フード左翼とフード右翼 食で分断される日本人』(朝日新書)
内沼晋太郎『本の逆襲』(朝日出版社)
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- By intellipunk / Feb 28, 2014 11:51 pm